荒巻義雄公式WEBサイト

トップ > 「荒巻義雄の世界」展報告書 > 展示の紹介

4 「荒巻義雄の世界」展 展示の紹介

 「荒巻義雄の世界」展の会場となった北海道立文学館の地下特別展示室には、従来の文学展の常識を覆す、斬新な展示空間が出現した。

 本展は、展覧会のサブタイトル「荒巻義雄の脳内宇宙」が示すように、荒巻が創ってきた作品世界の全貌をさまざまの角度から紹介するとともに、「荒巻義雄」という作家がどのようにして形成されてきたかを、幼少期からたどるというコンセプトで開催された。
 「荒巻義雄の世界」展の図録冒頭の「あいさつ」が、「本展は、文学はもとより、哲学、美術、科学技術など、多様な領域から『知』をくみあげながら創造される荒巻義雄の世界を、多角的に照らし出そうとするものです」と、端的に述べている通りである。

 本展は、このようなコンセプトを具体化するため、作家の自筆原稿、作品、年譜といった、従来の文学展の定番展示は比較的コンパクトにまとめて、ほかにアニメ化作品のビデオやCG映像の上映、パノラマ写真やCGアートの展示など、多様な仕掛けで視覚と聴覚に訴える、独創的な展示を心がけた。
 展示の総合プロデュースは建築家松橋常世が担当し、松橋はじめ、建築家木下泰男、建築家平尾稔幸、古民家鑑定士石川圭子、プロダクト・デザイナー中井孝二ら実行委員のほか、松橋常世建築設計室の相山隼也が、北海道立文学館で本展を担当した井内佳津恵学芸課長らとともに、実際の会場設計・設営を行った。
 CGアートと映像は、実行委員のCGデザイナー中野正一が制作し、展示の目玉となった荒巻の書斎のパノラマ写真は、パノラマ写真家の横谷恵二が制作した。
 実行委員や協力者はいずれもボランティアで参加しており、その結果、極めて質の高い展示が、常識外の低予算で実現されたことは特筆に値する。

 「従来の文学展のイメージを変えよう」という意気込みで開催された本展は、入場者にも好評だった。パノラマ写真映像を自分で操作したり、展示された取材アルバムなどを手に取ったりする入場者も多く、「面白かった」という感想が聞かれた。
 以下、「荒巻義雄の世界」展の展示概要を、コーナーごとに紹介する。

【プロローグ】

 入り口から入ると、正面に写真家佐藤雅英が撮影した荒巻のポートレート(写真4-1)、手前に荒巻の単行本未収録作の豆本『プラトン通りの泥水浴』が展示された(写真4-2)。豆本を制作したのは、荒巻の長女典子。左には松橋が制作した「ニュー・ユートピア・シティー」の設計図(写真4-3)。さらに、ポートレートの裏側に『艦隊シリーズ』について報じた1995年の「ニューヨークタイムズ」紙の記事コピー(写真4-4)やポスターが展示され、徳間書店提供のアニメーション『紺碧の艦隊』『旭日の艦隊』シリーズが、常時上映された。

【私の書斎】

 正面に、横谷が制作した荒巻の書斎のパノラマ写真がプロジェクターで常時映しだされた(写真4-5)。書斎写真は、入場者がパソコンのマウスを操作して、自由に見る角度や範囲を変えることができるようになっていた。横の壁には、荒巻の頭部MRI写真と、荒巻による「書斎論」が展示された。

【鏡の間】

 書斎コーナーから次の展示コーナーに行くためには、平尾が設計した「鏡の間」を通る仕組みになっていた。これは、3枚の大きな鏡を正三角形に配置した閉じられた空間で、入場者は無数に映る自分の姿を見ながら、荒巻の「脳内宇宙」に入っていくことになった(写真4-6)。平尾によると、鏡の角度の調整が難しかったという。

【私の履歴】

 「鏡の間」を抜けると右側の壁面に、荒巻が幼少期を過ごした小樽の写真(写真4-7)。さらに、若き日の荒巻のポートレートや、荒巻が描いたフロッタージュ「ブラックホールが見る夢」「ブラックホールの恋人」、シルクスクリーン「虹の夢」(写真4-8)、さらに浜田泰介が描いた長編『黄金繭の睡り』(徳間書店)の表紙原画、短編集『ある晴れた日のウィーンは』(カイガイ出版)の表紙原画などが展示された。
 ショーケースと左側の壁面に設けられた書架には、「私はこうした本を読んで私になった!」というタイトルで、少年期から現在に至るまで、荒巻が読んできた本の一部、300冊余りが展示された。ショーケースに展示されたのは、荒巻が少年時代に読んで大きな影響を受けた『少年倶楽部』や、古い『SFマガジン』などの雑誌類(写真4-9)。実行委員のプロダクト・デザイナー中井孝二が設計したシンプルな青い書架(写真4-10)には、SF(写真4-11)をはじめ、文学(写真4-12)、美術、哲学(写真4-13)、科学、歴史、超古代史、心理学、詩など、幅広いジャンルにまたがる多くの本が並べられ、入場者の関心を集めた。
 また、突きあたり手前のテーブル上には、荒巻の少年期からの写真アルバムが置かれた(写真4-14)

【幻文明の旅】

 突きあたりの壁面には、平尾と木下が作図した、国内外数十回にわたる荒巻の取材旅行の足跡と構想をまとめたパネル(写真4-15)が展示された。その手前のショーケースには、取材旅行の間に荒巻が残した取材ノートや、プロはだしのスケッチ(写真4-16)、12冊のアルバムに収められた記録写真(写真4-17)などが展示された。
 伝奇推理小説を執筆する際、構想をまとめるために荒巻が書き込みをした地球儀、『ビッグ・ウォーズ』シリーズ執筆に使われた火星儀(写真4-18)も展示された。火星儀の隣には、米国の火星探査船「フェニックス」が火星に運んだ、荒巻の作品「柔らかい時計」をはじめとする火星にかかわる世界の小説などを収めたディスク(複製)が置かれた。
 また、突きあたり左手前のショーケースには、「ユーフラテス川の小石」「モヘンジョダロのレンガ片」「粘土板文書(複製)」「イースター島の鳥人神」「エクアドルの土偶」(写真4-19)など、荒巻が取材で国内外の多数の遺跡を訪れた際に入手した、さまざまの記念品が展示された。

【絵画コレクションと全著作】

 会場中央、パーティションでつくられた壁面の内側には、荒巻が所有し、著作にも影響を与えた、ルフィーノ・タマヨ、サルバドール・ダリ、小川原脩、マックス・エルンストら、シュールレアリスムの画家たちの作品が飾られた(写真4-20)  それに対面する壁面には、中井が設計した書架が設けられ、これまでに荒巻が執筆した全著作180冊が展示された(写真4-21)
 パーティションの間を通って突きあたりの壁面には、それぞれの自作の前に立つ、荒巻と親しい19人の画家たちのポートレートが展示された(写真4-22)

【ニュー・ユートピア・シティー】

 出口手前の壁面には、中野が制作した「ニュー・ユートピア・シティー」(NUC)のCGアートをつなげた、長さ11メートル、幅1.15メートルのタペストリー(写真4-23)が飾られ、人目を引いた。タペストリーには、荒巻による語録がプロジェクターで投影された。
 奥の壁面には、中野が制作したNUCのCGイメージ映像が常時、プロジェクターで投影された。

【ガラクタ博物館】

 出口手前のショーケースには、荒巻の頭脳を刺激してきたさまざまの美術作品や「ガラクタ」が納められた。彫刻家安田侃の作品のマケット(写真4-24)や、彫刻家國松明日香の作品、さらに「ザルツブルクの塩坑の岩塩」「ベルリンの壁の破片」「柔らかい時計のグッズ」「クラインの瓶」など、荒巻が世界各地で入手し、想像力を喚起してきた「ガラクタ」が並べられた(写真4-25)

【読書コーナー】

 出口手前には、「読書コーナー」が設けられ、荒巻作品が読めるiPADのほか、代表作の単行本、文庫本、荒巻原作のマンガなどが用意された(写真4-26)
 読書コーナーの中央の円柱には、井内学芸課長がまとめた荒巻の履歴と著作一覧が記された(写真4-27)。さらに奥の壁面には、これまでに荒巻が受賞した「星雲賞」「北海道新聞文学賞」「札幌芸術賞」の表彰状、新聞記事、近影などが展示された(写真4-28)

5「荒巻義雄の世界」展 企画の紹介と詳報 企画の紹介

「荒巻義雄の世界」展報告書

link

ページのトップへ戻る