荒巻義雄公式WEBサイト

トップ > 「荒巻義雄の世界」展報告書 > 企画の詳報:c 対談「SFにおける都市のイメージ」

5「荒巻義雄の世界」展 企画の紹介と詳報

B 企画の詳報


c 対談「SFにおける都市のイメージ」

2014年3月1日 午後2時~午後3時30分
北海道立文学館地下講堂
聴衆 約60人

講師 荒巻義雄(作家)
   松橋常世(建築家)
司会 三浦祐嗣(「荒巻義雄の世界」展実行委員、SF研究家)
画像担当 相山隼也(松橋常世建築設計室)

三浦 本日は、「荒巻義雄の世界」展の関連企画、対談「SFにおける都市のイメージ」にお越しいただき、ありがとうございました。ここで、講師を務めるおふたりの先生方を紹介させていただきます。まず、向かって左、皆さまご存知かと思いますが、荒巻義雄先生です。先生はSF作家、評論家としてご活躍ですが、1933年、小樽市のお生まれです。80歳になられます。札幌南高を経て、早稲田大学を卒業され、東京で出版社に勤務後、札幌で家業の建設業に携わる傍ら、北海道で初めてのSFファンジン『CORE』の創刊に加わり、SFの執筆を始められました。

 1970年に、SFマガジンでデビューし、SF、伝奇小説、架空戦記小説、詩、美術評論と、幅広い分野で精力的にご活躍なさっておられます。SFでは、中編「白壁の文字は夕陽に映える」で星雲賞、詩集の『骸骨半島』で北海道新聞文学賞を受賞されました。札幌時計台ギャラリーのオーナーとして美術関係者との交流も深く、2013年には札幌芸術賞を受賞されています。ご自身も2級建築士の資格を持つほどで、とりわけ建築には造詣が深く、現在も書き続けている「ビッグ・ウォーズ」シリーズは、銀河空間を航行する都市型宇宙船「ニュー・ユートピア・シティー」が舞台になっています。

 もうひと方は、建築家の松橋常世さんです。札幌で松橋常世建築設計室の代表をなさっています。1947年、秋田県のお生まれです。偶然ながら荒巻先生と同じ4月12日が誕生日ですが、この日は、1961年にガガーリンが初めて宇宙に飛び立った日でもあります。武蔵野美術大学建築学科を卒業され、1983年、札幌で事務所を設立されました。代表作には、 札幌市の居酒屋「眠花」、札幌市の「大昌寺本堂」「客殿」、家では「水盤のある家」などを建てられています。札幌国際デザイン賞準大賞、HDC商業デザイン最優秀賞などを受賞されており、現在、大谷大学非常勤講師も務めておられます。実は荒巻先生と松橋さんのお付き合いはかなり古く、今回の「荒巻義雄の世界」展に展示されているニュー・ユートピア・シティーの設計図を書かれたのが松橋さんです。1983年、事務所を設立したばかりで、仕事の無いときに荒巻さんから、「ビッグ・ウォーズ」シリーズに出てくる宇宙船を描いてみないか、と言われ、ご本人によると、「あり余る時間を使い、若さにまかせすべて手書きで書き上げた」そうです。「こんなに力を込めた図面は、今後はもう描けないであろう」ともおっしゃっておられます。

 このおふた方に対談していただくわけですが、今回画像を担当していただくのは、松橋建築設計室のスタッフ、相山隼也さんです。相山さんは、今回の展示会場のかなりの部分の設計を担当されています。では、よろしくお願いします。

松橋 はい、ありがとうございました。これから早速、お話をしていきたいと思います。テーマは「SFにおける都市のイメージ」となっていますが、中身は「SFにおける建築と都市について」と、「建築」という言葉が入る形になります。

 さて、今日は、SFは読んだことがないという方もおられますが、実は非常に面白い世界です。空想とか、夢とかで語られることも多いのですが、現代ほどSFというジャンルが必要とされる時代はないのではないかとも思っております。私たちが地球を見る時、例えば日本地図をさかさまに置くと、「これはいったいどこの国だ?」となるわけです。これが視覚的に見たSFの原理と言っていいかと思います。

 実は荒巻さんは、建築士の資格を持っておられます。この写真は、荒巻さんの札幌南高の同級生で、北海道教育大の教授だった伊藤隆一さんのお宅を荒巻さんの北建工業が建てたときの現場の写真です(写真5-37)。荒巻さん、この時のエピソードは何かございますか。

荒巻 えーと、この時は伊藤さん、予算があまりなくて、確か850万円くらいでこの家を建てました。鉄筋コンクリート・木造・ブロック建築という非常に奇妙な建物で。ただ、北国にふさわしい家ということで、よくモデルにされました。

松橋 その当時の建物としては、かなりインパクトがありましたね。

荒巻 実はね、ぼくのデビュー作「大いなる正午」の原型となった「時の波堤」という短編を書いたのは、ここの現場でした。ある意味で、ぼくの出発点になったわけで、この現場には思い入れがあります。

松橋 荒巻さんは、現場で監督をしながら、実は小説も書いていた。現実にモノをつくる立場にいながら、空想の世界に遊んでいたわけですね。

荒巻 地球で家を造ると、重力による構造上の問題があるわけで。こんなに制約がある地球で家を造るくらいなら、むしろ宇宙に出た方がいいのではないか、という発想がありましたね。条件を変えるとどうなるの、ということです。空想建築の面白さですね。

松橋 で、デビュー後、いろいろな所へ旅されるわけですね。ここで代表的な取材先をお見せすると、まずストーンヘンジ、ウルのジックラト、イースター島のモアイ、それからポナペ島のナン・マトール(写真5-38)。こういう遺跡を見て歩いて、人間の遠大な思想が込められている建築の初源的なものに触れられた。

荒巻 ナン・マトールは海上都市です。ここを取材して『黄金の珊瑚礁』という作品を書きました。チャーチワードという人が、太平洋に沈んだムー大陸実在の証拠として挙げていますが、それほど古いものではないですね。建ったのは紀元後500年くらいです。問題はかなり離れた場所から、石をどうやって運んだかということです。巨石文明というのは、石の運搬技術を持っているのです。ピラミッドもストーンヘンジも、イースター島のモアイもそうです。

松橋 ナン・マトールは、なかなか観光客が行けない所らしいですね。

荒巻 町からボートに乗って行きます。行ってみれば非常に面白いところですよ。

松橋 こうして、一連の古代遺跡を訪ねてこられた荒巻さんですが、ここでちょっと趣向を変えて、司会の三浦さんからお借りした古いSF雑誌に描かれた都市の写真をお見せして、解説をお願いします(写真5-39)

三浦 飛び入りです。古代の建築から、一挙に未来に移ります。まず、一番下の左端のイラストは、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、フリッツ・ラングが監督した1925年公開の映画「メトロポリス」に登場した未来都市です。けっこう大当たりした映画で、たぶんこの映画で、一般人には未来都市のイメージが刷り込まれたのではないかと想像しております。

 次に左上ですが、SF作家のH・G・ウェルズが書いた『来たるべき世界の物語』という作品が、1920年代のアメリカのSF雑誌『アメージング・ストーリーズ』に再掲された時の、フランク・パウルという有名なSF画家のイラストです。これをご覧になればお分かりの通り、絵の中に車がありません。真ん中の道路はなんとそれぞれ速度の違う動く歩道です。右の斜め上に行きます。『エア・ワンダー・ストーリーズ』というSF雑誌の1929年11月号の表紙写真です。描いたのは、やはりパウル。一目瞭然、都市が空に浮かんでいます。荒巻先生の都市型宇宙船は、都市が宇宙に飛び出すわけですが、この都市はまだ空に浮かぶだけです。これは実はニューヨークです。中央の塔は、宇宙線のエネルギーを集めて動力にしています。まさにエコですね。最後に右下は、未来の都市ですが、地球人の都市ではありません。実は木星の第4衛星のカリストに住む異星人が造った「水の都市」です。パウルの作品で、1941年の『アメージング・ストーリーズ』の裏表紙を飾りました。なかなか情緒があふれていますね。こういう絵が、たくさんSF雑誌を飾っていたわけです。

 あ、続いて出てきましたね。一挙に説明します(写真5-40)。左上は、1928年の『アメージング・ストーリーズ・クウォータリー』という雑誌に掲載された「ザ・ムーン・ドーム」という作品の挿絵です。21世紀の大都会です。まさに当時の人たちが考えていた未来都市ですが、その21世紀に私たちはいるわけです。今の都市とは違いますが、当時、ニューヨークでどんどん造られていた摩天楼のイメージが反映していると思います。次、この右上ですね。これはまさに、宇宙都市です。ジェイムズ・ブリッシュという作家の「宇宙都市」シリーズに出てくる、宇宙を旅するニューヨークで、クリストファー・フォスというSF画家が1984年に描きました。右下の絵も同じ宇宙都市ニューヨークですが、こちらは1962年の絵ですね。描かれた年代によってもイメージが違います。最後に左下の絵ですが、『ワンダー・ストーリーズ』というSF雑誌の表紙です。未来の人はこんな都市で生活しているであろうと、画家は考えたわけです。以上、SFに出てくる都市のイメージをざっとお伝えしました。

荒巻 ひとつ言うと、アメリカ人が考える未来都市のイメージは、直線ですね。垂直のイメージ。当時のアメリカ人の心理状況、近代というイメージが、こういう絵にも出て来る。日本人は絶対、こういう感覚はないですね。

松橋 昭和の初めに、いろいろな方が絵を描いていますが、かなり楽天的ですね。それから世の中が厳しくなってくると、だんだん暗くなってくる。

荒巻 心の問題というか。外に出るか、内にこもるかという心理的要素が、絵の中にも表れますね。

松橋 ここで、都市と建築が出てくる代表的なSFを荒巻さんに選んでいただきましたので、紹介します。最初にブリッシュの「宇宙都市」シリーズです。

荒巻 それは、さっき絵が出てきました。地球の都市が、どんどん宇宙に飛び立っていく話です。ただ、宇宙を飛んでいくとなると、まず不死の問題がある。何百年もかかるわけですから。あとは、エネルギーの問題と、閉鎖空間による心理的な問題。いろいろな問題がありますね。

松橋 あと、代表的なお薦め作品はありますか。

荒巻 二―ヴンの『リングワールド』かな。これは地球じゃないけど、似たような太陽の周りにリングがあって、その中に人が住むという壮大な話です。あとはクラークの『都市と星』。ここに出てくる都市では、人間がデータになってコンピューターに収められていて、必要に応じて再生される。シマックの『都市』は、都市の変遷の話。人間がだんだんいなくなっていって、その後継者は犬です。で、犬も滅びていって、最後の後継者はアリだったかな。ペシミスティックなアンチ・ユートピアの物語です。

松橋 次に、荒巻さんの『カストロバルバ』という中編連作集(写真5-41)を紹介します。「天才画家エッシャーの超建築の街カストロバルバで殺人事件が起きる」とあるので、建築家としては「どんなことが書かれているのかな」と興味があって読みました。4編。「物見の塔の殺人」「無窮の滝の殺人」「版画画廊の殺人」「球形住宅の殺人」ですね。

荒巻 実は、このエッシャーの絵の著作権料がものすごく高くてね。「物見の塔の殺人」では、絵の中の登場人物にみな名前を付けました。物見の塔で殺人事件が起きるのですが、死体を外に落とすと、中に落ちる。錯覚を利用して、空間を歪ませているのです。エッシャーというのは不思議な画家ですね。「版画画廊の殺人」は、画廊で背中を撃たれて人が死んでいる。空間が曲がっているので、前に撃った銃弾が背後から当たる。

松橋 すごいミステリーですね。展覧会場には、荒巻さんの書斎のパノラマ写真が映されていますが、エッシャーの絵に似ていますね。

荒巻 エッシャーはあの時代に、既にああいう絵を描いていました。

松橋 次に行きましょう。これは絵の中ではなく現実のものです。世の中にはけっこう奇怪な人がいますね。アメリカのロサンゼルスにあるのですが、サイモン・ロディアという人が33年かけて拾ったもので造った「ワッツ・タワー」という塔です(写真5-42)

荒巻 拾ったもので造っているのだから、ブリコラージュですね。

松橋 次は、フランスにある「シュバルの理想宮」。ここも観光コースになっていますが、建築の知識のない郵便配達夫が一生をかけて造った夢の宮殿です(写真5-43)

荒巻 日本にも、こういう人がいますね。一生かけてお城を造るとか。建築には、何か人間の夢想を駆り立てるものがありますね。

松橋 次は荒巻さんの長編『神聖代』です。ボッスという画家の絵に出てくる世界のお話ですが、ちょっとご説明をお願いします。

荒巻 これは、ぼくの代表作です。インドを旅行した時のイメージがかなり重なっている。ある少年が、神聖試験という試験に合格して、ボッス星という星へ向かうと、ボッスの「快楽の園」という絵の世界が実際にある。実はこの作品は、父の話です。途中で行き詰まって、結末をどうしようかと考えていた時、東京の虎の門の病院で父が亡くなった。その時に結末を思いつきました。アメリカのミネソタ大学出版局が、日本の代表的なSFの翻訳をしていますが、『神聖代』も翻訳されるみたいです。既に、 ぼくと同じ小樽出身の川又千秋さんの『幻詩狩り』というSFが昨年翻訳されていますが、これも完全にシュールレアリスムですね。

松橋 『神聖代』は、筒井康隆さんが絶賛していましたね。荒巻さんがシュールレアリスムに傾倒していったきっかけは、なんだったのですか。

荒巻 ぼくの場合は絵ですね。ダリとかマグリットの絵を見ると、不思議だと思うでしょう。この絵をそのまま小説にして、自分はその中に入りたいという欲求を感じるわけです。

松橋 よく私たちは「空想」「想像」という言葉を使います。あとは「創造」「思弁」。こういった言葉は、どう定義されるのでしょうか。

荒巻 「空想」は、存在しないこと、あり得ないものを考えること、「想像」は、存在するけれどまだ見たことのないものを考えることですね。英語だと、どちらもイマジネーションかな。

松橋 「創造」は、既知の物を組み合わせて新しいものを創ることですかね。

荒巻 これからは「空想的建築」の時代じゃないですか。モノでなくて、概念の断片をブリコラージュして、ありあわせのもので何かをつくるということをやっていけば、空想建築が可能になる。今は、重力が地球の3分の1の火星に都市を造るプロジェクトを考えています。

松橋 ブルース・スターリングというSF作家が、「無時間性」、つまり歴史的要素がそれこそブリコラージュされてくるということを言っていますが、モダニズムからポストモダニズムに行って、デコンストラクションからモダニズムに戻るという流れが、建築の様式にもさまざまの影響をもたらしていますね。

 さて、ここで、荒巻さんと私がコラボレートさせていただいた「ビッグ・ウォーズ」シリーズの話をさせていただきます。『精霊荒野に咽きて』という枝篇の作品がありますが、この表紙画(写真5-44)を描いたのが私なのです。最初、私はデッサンだけで、本職のイラストレーターが描いてくれるはずだったのですが、編集者が「これ、いいじゃない」と言って、そのまま表紙になりました。

荒巻 これは、火星にある巨大な割れ目に都市を造りました。

松橋 このシリーズでは資料編の仕事をお手伝いしたのですが、この大都市「マリーナ・シティー」 (写真5-45)の周りにいっぱいある都市の名前や性格、人口などを考えろと荒巻さんに言われて(笑)。そこで、何を参考にしたかと言うと、ギリシャ神話です。神話から、ちょいちょいつまんで。

荒巻 重力が3分の1だから、斜面都市(写真5-46)みたいのが可能になるのですね。

松橋 実際に建築をやりながら、火星にこういう夢のような都市を造っていると、自分の現実の世界に戻るのが、非常に大変でした。このような作業が、テラ・フォーミングですね。

荒巻 テラは「地球」、フォーミングは「つくる」という意味で、火星を地球のようにつくり変えようという意味です。もう100年も前からある考えですね。金星は亜硫酸ガスがあって難しいので、火星にしようと。でも、火星の大気は地球の何百分の1しかない。酸素もほとんどない。紫外線も降り注ぐ。そこで最近、アメリカのNASAの研究所では、合成生物を使おうと考えています。遺伝子工学のテクニックを使って紫外線に非常に強い藻類を合成して、火星で増やす。フロンガスで温暖化させて、火星の地下にある大量の氷を溶かし、気化させて雲をつくる。こうすると次第に植物が増え、酸素をつくって火星が地球化していく。将来は酸素マスクもなしで暮らせるようになるというのです。

松橋 そうすると、実際に人間が火星に行くことになるわけですが、果たしてそこで住むことに耐えられるのかという実験が、アメリカで行われた「バイオスフィア2」ですね。男女4人ずつの科学者が、巨大な密閉空間で暮らしました。ところが、バクテリアの影響で食糧不足になったり、精神的に不安定になって対立が生じたりして、2年ほどで中止されました。

荒巻 まあ、いろいろと予想もできないことが起きるかもしれませんが、今の生物科学で火星の地球化はある程度実現できそうです。そのためには、火星にまで大量の資源を送る必要がありますが、軌道エレベーターを使えば輸送コストは大幅に下げられる。もうSFの話じゃないですね。火星には、ヘラス平原という巨大な平原がありますが、遠い将来にはこの平原が海になるかもしれません。

松橋 話は変わりますが、私は荒巻さんの『帝国の光』(1997年、幻冬舎刊)という本でもお手伝いさせていただきました。この本では2025年の世界を予測しているのですが、その中に「ジオフロント」という地下都市を造る構想が出てきます(写真5-47)

荒巻 地下の深い部分は誰のものでもないという法律ができているので、東京はこれから地下の利用が進むでしょうね。札幌も、こんなに雪が降るのですから、地下50メートルくらいをどんどん掘っていけばいい。

松橋 荒巻さんは、ほかにもいろいろな項目を挙げて、面白いコメントをなさっていますね。「老人の定義」「レゴ建築」「モリス」「横請け」とか。

荒巻 「老人の定義」というのは、「もう老人は75歳以上にしましょう」ということです。「レゴ建築」というのは、子供のおもちゃのレゴみたいに、パーツを組み合わせて建物を造っていこうということですが、もうこれは流行っていますね。「モリス」は、「森」と「ポリス」の合成語です。「森の都市」ということで、要は森の中で暮らそう、と。

松橋 いま、建築界では、「都市循環型」とか環境の問題をテーマに扱った建物が多いのですが、「モリス」は、3000人くらいの小さなまとまりになるのですね。ここが非常に新鮮でした。

荒巻 「横請け」というのは、大企業にいじめられる下請けではなくて、例えば東京の町工場の人たちが集まって「江戸っ子1号」という潜水艇を造ったみたいに、知恵を持った人たちが集まって横につながっていろいろな仕事をするという概念です。

松橋 荒巻さんの高校の同級生に竹山実さんという方がおられますが、実は私の師匠でもある竹山先生は、日本にポストモダニズム建築を紹介した非常に才能あふれた建築家です(写真5-48)。その竹山先生が、荒巻さんにウィリアム・カタヴォロスの作品を紹介したのですね (写真5-49)

荒巻 そうそう。『神聖代』に出てくるマリモのような惑星も、それにヒントを得て考えました。植物が住宅になっているのですが、これは「モリス」の発想です。つまり、宇宙に材料をたくさん持っていくのは大変だから、家の種子を持って行く。それを播くと植物が生えてきて家になる。さっき言ったアメリカSFの、直線、高層の建築とは違って、曲線の建築です。

松橋 会場に図面が展示されている「ニュー・ユートピア・シティー」は私が設計しましたが、実はこれは旧ニュー・ユートピア・シティーでして、現在執筆中の作品では、進化していますね(写真5-50)

荒巻 宇宙を旅していると人間は神経症にかかると思う。で、癒しの空間を造るために、都市型宇宙船の中を植物で埋めてしまおうと考えました。その中に、人間が暮らすわけです。

松橋 そろそろ時間が来ました。今回は、たまたま私が建築をしているということで「SFの中の都市と建築」に的を絞りましたが、私とはまったく違うジャンルの方がここに座っておられても、荒巻さんはたぶんそれに応答してくれる、ものすごく幅広い知識を持っている方です。今日の対談も、果たしてうまくいくかどうか心配だったのですが、なんとか終えることができ、いろいろと奥の深い話をうかがえました。

荒巻 松橋さんが描いてくれたニュー・ユートピア・シティーの設計図がそもそもの始まりで、それがこの文学展につながりました。もう40年くらい前になりますか。

松橋 いまは、もう描けるだけの体力はありません。

荒巻 話が飛びすぎたかもしれませんが(笑)、まあ、こんなことを考えているのがSF作家だと思ってください。それでは、終わりましょう。

三浦 荒巻先生、松橋さん、ありがとうございました。1時間半、楽しんでいただけたかと思います。「荒巻義雄の世界」展、特別展示室で開催しておりますので、ぜひご覧になってください。

(以上、対談要旨)

6「荒巻義雄の世界」展 プレイベントの紹介

「荒巻義雄の世界」展報告書

link

ページのトップへ戻る